キッチンを、しあわせを感じる場所にしたい

LiB contents代表
田原 由紀子

Tahara Yukiko

みなさんにとってキッチンは、どんな場所ですか?
慌ただしい毎日の中、いつもバタバタと走り回る戦場のような場所
家族を送り出した後、ホッとひと息しながら朝のコーヒーを飲む至福の場所
夫婦2人の休日、遅い朝食をゆったりとした気分でつくる優雅な場所
大好きなパンづくりをとことん極める、自分だけの大切な場所
いずれにしても毎日の食事をつくり、家族に、もちろん自分自身に
笑顔と活力を送り込むキッチン
それぞれイメージは違ったとしても、どのお家でもキッチンは「暮らしの中心」
とても大切な場所だと思います。

しあわせを育てるKitchen

一生モノのキッチン

リブコンテンツは、キッチンは「一生モノ」だと考えます。
だから、とことんこだわってほしい。「一生」使えるように。

「一生モノ」ーこの言葉を聞いてどんなものが思い浮かびますか。
両親から受け継いだ高価なもの。少し高くても思い切って買ったもの。こだわってつくった、ずっと大切に使うもの。「一生モノのキッチン」とは、あなたの暮らしにぴったりフィットする、そして今とは違う10年後、20年後の暮らしにもフィットさせることのできるキッチンです。
実は、残念なことですが、システムキッチンの寿命は15年といわれています。これまでの消費中心の建築の世界では、キッチンは住まいの中の「設備機器」という位置づけでした。
設備機器というのは、たとえば冷暖房、トイレ、給湯器など。設備は年数が経てば壊れてしまうもの、壊して新しくするもの。住宅自体の寿命が著しく短い日本では、ごくあたり前の感覚だったのかもしれません。
実際にキッチンリフォームのご相談は、10~15年経ったものが多いのも、この「キッチン寿命15年説」を裏付けているようです。
でも、実はそうではないということに、キッチンを使っている側のみなさんが、だんだん気づき始めているのではないでしょうか。

一生モノのキッチン

「一生モノ」をつくるために

特別高価なものを使う必要はありません。大切に使いたいものを選んで、「これからの、わたしの暮らし」をじっくり考えてつくれば、そこに自然に愛着がわきます。愛着をもって使われるそのキッチンは「一生モノ」になるはず。
愛着のもてるキッチン、そこには、あなただけのストーリーがあります。それは、家族の顔が見える「キッチンに立った時の光景」であったり、とことん考え抜いた使いやすさであったり。子どもの頃からあこがれていた、洋書に出てくるキッチンを実現できた喜びであったりするかもしれません。
大好きな色、丈夫で機能的なヒンジやレール、味わいが出てくる素材、動きやすいレイアウト、使いやすい収納、メンテナンスを重ねながら長く使える機器類。そして、一生大切にしたくなるために一番大切なことは、そのキッチンをつくる過程でのコミュニケーションです。つくっていく過程を楽しむことで生まれた「わが家のためのキッチン」という思い入れ。それは、たとえ古くなっても消えることなく、心に残っていくものです。
毎日の食事をつくり、家族に活力と笑顔を送り込む「心臓」のような場所。キッチンは、どこにあろうと昔から「暮らしの中心」だから、一生大切にしてほしい場所なのです。

一生モノのキッチン

キッチンづくりへの想い

引越しが多かったわが家は、私が小学校を卒業する頃に、3軒目の家を建てることになりました。1軒目は生まれて間もない頃、2軒目は幼稚園児でしたからどちらもほとんど記憶がないのですが、3軒目のときは、設計図を見ながら家族でアレコレと話し合って、そのたびに設計士さんがプランを描き変えてくれ、打合せがとても楽しみだったことを覚えています。自分の部屋のカーペットや壁紙、照明を選んだこともいい思い出です。
思えばこの経験が、建築学科という進路を決めるキッカケだったのかもしれません。

就職時期はバブル真っ只中だったので、流れに身を任せ大手の建設会社に入りました。たくさんのことを学ばせてもらいつつ、家づくりへの想いはフツフツと消えることがなく、2度目の転職で出逢ったのがオーダーキッチンの世界でした。
慣れないキッチンの図面を描くようになって、しばらくたって思い出したことがあります。中学生の頃の家庭科の授業に「キッチンの設計」というテーマがありました。寸法や動線という考え方を学び、キッチンを設計する課題が出て、方眼紙を前にどうしようもなくワクワクしたことが走馬灯のように浮かんできたのです。建築学科に進もうと考えていた頃には、全く思い出さなかったのに、不思議ですね。
このことを思い出したことで、キッチンの仕事が天職だと感じるようになりました。以来、飽きることなくずっと、同じ仕事を続けています。

キッチンづくりへの想い

何にそんなにワクワクしたのかと思い返してみると、素材や色などデザインを考えることは、もちろんとても楽しかった。でもそれよりも、14歳で初めて出会った「動線」という言葉にハッとしたことを覚えています。
キッチンは、家の中で一番、人が動く場所。そしてそれは単純な動きではなく、(食器や食材を)出す、洗う、切る、火を入れる、盛り付ける、(食卓に)出す、片づける、ごみを捨てる・・・それぞれに意味や動きの違うあらゆる動作を行う場所です。
それらの動作がスムーズにいくための、人が動く線である「動線」。短ければ短いほど便利だけれど、作業スペース、収納スペースも必要で、そのバランスをとることがとても難しい。
もしかしたら家を設計するときに、一番難しいのが、そして大切なのがキッチンなのでは?自分が方眼紙に描いたその線が、このキッチンを使う人の動きやすさを左右することにワクワクを覚えたのでした。
余談ですが、そのワクワクした気持ちを夕飯を支度中の母に話したとき
「キッチンをつくるなら、(お鍋の蓋と菜箸を手に取って)コレをちょっとここ(コンロの脇)に置けるようにしておいて」
と言われ、(え?そんなこと?)とガックリ。でもそんな細かいところが日々のストレスになるのも事実。動線という大きなところから小さなところまで、隅々にまで心を配って形にしていくことがキッチン設計の醍醐味なのです。

キッチンづくりへの想い

絆をつくる場所、キッチン

学生の頃、アルバイトで家庭教師をしていました。理系女子だったせいか需要が高く、4年間で20人くらいに教えたでしょうか。お家に伺うのは、ちょうど生徒さんが夕飯を食べ終わる頃。休憩の合間に一緒にご馳走になることもありました。
何軒ものお宅の夕飯を見ていると、いかにも「お袋の味」というお宅、逆にコンビニ弁当や菓子パンだったりと本当にそれぞれ。家庭教師仲間とそんな雑談をしながらふと、手づくりご飯のお家のお子さんは成績が上がりやすいかも ?と気がつきました。
おいしいごはんを食べると心が豊かになって好奇心が沸き、勉強意欲が増す?真偽の程は不明ですが、若かった私の心に残りました。
もちろん、毎晩手づくりじゃないと!なんてことはありません。疲れたときは「何か買ってきて」でもいいと思います。無理して怖い顔で作るより、「今日は食べに行っちゃお!」と笑顔で言う方がいいですよね。
でもやっぱり手づくりのごはんは、ひとつの家族の絆だと感じます。

そんな絆をつくる場所、キッチン。そこが家の中で一番好きな場所になったら。立つのが楽しいと感じる場所になったら。そこは料理をするだけでなく、家族のことを想う場所になります。そんな気持ちで作るごはんは、なぜだかとてもおいしい。おいしいご飯は、子どもの成績を上げる(?)だけでなく、きっと家族を豊かにする。
そんな想いでこれからも、暮らしの中のしあわせなキッチンをつくっていきたいと思います。

絆をつくる場所、キッチン